財務省が発表したことし5月の経常収支は、3兆9683億円の黒字となりました。黒字は16か月連続です。「経常収支って結局なんだっけ?」という方も、実は円相場や日本株の地力に関わる大事な指標なので、今日は静かに読み解いていきます。

貿易黒字ではなく「配当で稼ぐ国」へ

まず押さえたいのは、今の日本の黒字の主役が「モノを売った利益」ではないという点です。かつて日本は自動車や電機を輸出して稼ぐ「貿易黒字大国」でした。ところが今は、海外に保有する株式や債券から得られる配当・利子、つまり第一次所得収支が黒字の柱になっています。

これは国際経済学でいう「成熟した債権国」の姿です。若い頃に一生懸命働いて貯めたお金を海外に投資し、年をとってからはその利子や配当で暮らす——個人の人生に例えると分かりやすいかもしれません。日本は国レベルで、その段階に入っているわけです。

へえ、と思っていただきたい豆知識をひとつ。日本の対外純資産(海外に持つ資産から負債を引いた額)は30年以上世界一を続けてきました。国全体で見れば、日本は世界一の「お金持ちの大家さん」なのです。

黒字なのに円安、という不思議

ここで慎重に見ておきたいのが、「経常黒字=円高」という教科書的な図式が近年ゆるんでいることです。理由は、海外で得た配当や利子が必ずしも円に戻ってこない点にあります。企業が現地で再投資すれば、その分は円買いにつながりません。

つまり、数字上は立派な黒字でも、為替市場を円高に押し上げる力は昔より弱くなっている。統計の表面だけを見て「黒字だから円高だ」と早合点すると、実際の相場と食い違うことがあります。海図(統計)と実際の潮の流れ(需給)は別物、というのが航海の鉄則です。

先日の記事で「AIの時代でもなくならない仕事」に注目が集まっている話に触れましたが、これも根っこは似ています。日本が働いて稼ぐ構造から、資産に働いてもらう構造へと変わりつつある。個人の資産形成の文脈でも、この地殻変動は意識しておきたいところです。

数字の裏を読む習慣を

経常収支は毎月発表される地味な指標ですが、日本経済の体質を映す鏡です。黒字が続いていること自体は安心材料に見えますが、その中身が「稼ぐ力」なのか「過去の蓄積の取り崩し」なのかで意味は大きく変わります。今回は所得収支主導、つまり蓄積が効いている構図が続いていると読んでいます。

※本記事は財務省発表を報じたNHKニュース(news.web.nhk)を参照し、数値以外の解釈は筆者独自の見立てです。